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水戸地方裁判所 昭和36年(行)11号 判決 1965年2月25日

原告 茨城県農業共済組合連合会

被告 伊藤順

主文

一、農作物共済掛金、事務費ふ課金、農業共済基金きよ出金およびこれらに対する損害金の各支払を求める原告の訴は、いずれも却下する。

二、原告のその余の請求を棄却する。

三、訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、各当事者の求める裁判

一、原告

(一)、被告は、原告に対し金二万三一九九円およびこれに対する昭和三六年二月二六日から右完済に至るまで一〇〇円につき一日三銭の割合の金銭の支払をせよ。

(二)、訴訟費用は被告の負担とする。

との判決および仮執行の宣言を求める。

二、被告

(一)、(1) 本件訴を却下する。

(2) 訴訟費用は原告の負担とする

との判決を求める。

(二)、右申立が認められないときは、原告の請求を棄却する、との判決を求める。

第二、原告の請求原因

一、原告と被告との関係

原告は、茨城県を区域とする農業共済組合連合会である。

被告は、同県猿島郡岩井町(昭和三〇年四月一日の町村合併前は旧飯島村)に住居を有し、水稲、陸稲、麦等の耕作の業務を営む者であつて、もと同所を区域とする旧飯島村農業共済組合の組合員であつたが、昭和三一年二月一日同組合が訴外岩井町農業共済組合(以下単に訴外組合と略称する。)と合併したため、訴外組合の組合員となつた。なお、右両組合とも原告の構成員である。

二、原告の訴外組合に対する債権

原告は、訴外組合に対し、別紙(一)原告債権目録記載のとおり、農業災害補償法(以下単に法と略称する。)第一二二条による保険関係の成立に伴う農業共済保険料および法第一三二条、第八七条第一項に基く事務費ふ課金の各債権を有している。

三、訴外組合の被告に対する債権

(一)、被告は、訴外組合(旧飯島村農業共済組合の債権債務は前記合併により一切訴外組合が承継している。)に対し、別紙(二)被告債務内訳表記載のとおり、法第一〇五条、訴外組合定款(旧飯島村農業共済組合の定款も同旨である。以下単に定款と略称する。)第一六条に基く水稲、陸稲、麦の各共済掛金、定款第六五条に基く建物共済掛金、法第八七条、定款第六八条の二に基く事務費ふ課金(防災ふ課金も含む。以下単にふ課金と略称する。)、農業共済基金法第四六条、定款第九五条の三に基く農業共済基金きよ出金(以下単にきよ出金と略称する。)およびこれらに対する定款第一六条に基く一〇〇円につき一日三銭の割合の遅延損害金の各支払債務を負担している。

(二)、右のうち建物共済については、毎年被告から訴外組合(合併前においては、旧飯島村農業共済組合)連絡員市川正雄に対して口頭で申込がなされ、これを訴外組合が承諾した結果共済関係が成立したものである。

四、債権者代位権の行使

法第一二二条によれば、農業共済組合とその組合員との間の各種共済関係は、同時に組合と農業共済組合連合会との間の各種保雄関係を成立せしめることになつている。従つて、訴外組合は、被告ら組合員から徴収した各種共済掛金(農作物(水稲、陸稲、麦)共済については掛金の九〇パーセント、建物共済については掛金全額)を原告に対する保険料として納入することになつており、共済掛金等の滞納があれば、それ以外に財源のない訴外組合は、原告に対し前記保険料等を支払うことができない実情にある。

しかるに、訴外組合は、被告に対する前記共済掛金、ふ課金、きよ出金債権の取立をしないから、原告は訴外組合に対する前記債権を保全するため、訴外組合に代位して、訴外組合の被告に対する前記各債権を行使し、被告に対し別紙(二)被告債権内訳表記載の金二万三一九九円およびこれに対する本件支払命令送達の日の翌日である昭和三六年二月二六日から完済に至るまで定款所定の日歩三銭の割合の遅延損害金の各支払を求める。

第三、被告の本案前の抗弁

一、債権者代位権の行使は許されない。

本件各請求は、訴外組合が被告にふ課した共済掛金等につき、原告が訴外組合の債権者として、これに代位してその取立をはかるためのものである。しかし、このような債権者代位権の行使は、次の理由により許されない。

共済掛金等のような公法上の債権については、公租公課についてと同様にその代位行使は許されない。もしこれを認めるならば、公共体団に債権を有する者が公租公課その他公法上の債権につき納税者に対し差押、強制執行をなし得るに至り、その結果公共団体の予算執行等経理関係を混乱させるに至る。

民法上の債権者代位権の規定は、その規定の位置からしても、その適用範囲が私法上の債権債務にのみ限られるのであつて、公法上の債権債務におよぼさない趣旨と解すべきである。

従つて、本件において、原告の債権者代位権の行使は許されないから、本件訴は不適法として却下されるべきである。

二、訴の利益がない。

農作物(水稲、陸稲、麦)共済掛金、ふ課金およびきよ出金について滞納があるときは、農業共済組合は、法第八七条の二の規定により、市町村に対し地方税の滞納処分の例によりその徴収をするよう請求することができ、市町村が一定期間内にその処分に着手せず、またはこれを終了させないときは、都道府県知事の許可を得て自ら地方税の滞納処分の例によりこれを処分することができる。従つて、その徴収について、民事上の裁判や強制執行の手続を要しない。そのふ課の金額、方法、手続等につき争があれば、支払義務者においてこれを争つて行政訴訟を提起すれば足りる。

右のとおり徴収について地方税の滞納処分の例によることのできる農作物共済掛金、ふ課金およびきよ出金については、訴外組合は、その取立のため訴により判決を求めることは利益を欠き許されない。そうであるとすると、訴外組合の債権者である原告としても、訴外組合に代位して被告に対し訴によりその支払を求めることは同様に許されない。農作物共済掛金、ふ課金およびきよ出金の各支払を求める原告の訴はいずれも不適法として却下されるべきである。

第四、右主張に対する原告の反ばく

本件共済掛金等について債権者代位権の行使が許されないとの主張は争う。これについても、民法第四二三条が準用されるべきである。

(1)  法第八七条の二により滞納金について強制徴収ができるとしても、その徴収につき民事訴訟によることが許されないわけではない。法第八七条の二も強制徴収を「することができる」と規定しており、「しなければならない」とは規定されていない。

(2)  訴外組合は、共済掛金等について強制徴収することができるとしても、現実にこれを実施していない本件の場合において、原告が訴外組合に代つて強制徴収できるわけのものでもない。原告は、本訴請求による以外、訴外組合に対する保険料等の滞納整理をすることができない。原告には訴の利益と必要がある。

(3)  建物共済掛金については、強制徴収の規定の準用がない。また、各種ふ課金については、昭和三二年五月法律第一一九号による改正(昭和三二年一月一日施行)によつて、はじめて滞納処分をなしうるよう改められたのである。従つて、それ以前のふ課金については本訴請求による以外、取立の方法がない。なお、防災ふ課金については、強制徴収の権限は認められていない。

第五、請求原因に対する被告の答弁および抗弁

一、請求原因第一項は認める。

二、同第二項は不知。

三、同第三項は争う。建物共済に関しては、被告はその申込をしておらず、これに加入していない。従つて、建物共済掛金およびそのふ課金の支払の義務がない。

四、同第四項は争う。

五、時効の抗弁

昭和三八年法律第一二〇号による改正前の法第八八条によれば、共済掛金もしくはふ課金を徴収する権利は、一年間これを行わないときは時効により消滅する。

本件の共済掛金等は、いずれも各年度の一二月末日までに支払われるべきものであるから、そのうち昭和三四年度以前のものについては、おそくとも昭和三五年一二月三一日の経過とともに時効により消滅した。被告は、本訴において右時効を援用する。

第六、抗弁に対する原告の答弁および再抗弁

一、本件の共済掛金等を徴収する権利が一年の短期消滅時効にかかるものであることは認めるが、時効により消滅した旨の主張は争う。

二、再抗弁 (一)、時効の中断

訴外組合(次の(1)については旧飯島村農業共済組合)は、本件の共済掛金等につき、被告に対し次のとおり催告ないし督促した。その内容は別紙督促表記載のとおりである。そして、被告は、その都度その支払債務を承認したので、消滅時効はその都度中断した。

(1)  昭和三〇年一〇月一日、飯島村農業共済組合職員訴外堀井星弐が個別催告。

(2)  昭和三一年七月二八日、文書をもつて共済連絡員を通じて催告。

(3)  同年一一月二二日、岩井町農業共済組合職員古矢松治が催告。

(4)  昭和三二年八月七日、文書をもつて共済連絡員を通じて催告。

(5)  同年一〇月一五日、右組合職員堀井星弐が催告。

(6)  昭和三三年八月二一日、右組合職員堀井星弐が、共済金(麦仮払金)支払と同時に催告。

(7)  昭和三四年八月一〇日、右組合職員堀井星弐が催告。

(8)  昭和三五年三月一〇日、右組合職員堀井星弐が催告。その際、被告は、昭和二九年度水稲、陸稲、麦、建物の各共済掛金、組合員割ふ課金および昭和三〇年度水稲共済掛金を納入した。

(9)  同年六月二五日、農業共済掛金等催告書を郵送督促。

(10)  同年一二月一六日、同催告書を郵送督促

(二)、時効利益の放棄

また、被告は、前記催告等に際して、すでに時効により消滅した共済掛金債権等について、いずれも時効の利益を放棄した。

第七、原告の再抗弁に対する被告の答弁

原告主張の催告ないし督促、債務承認、時効利益の放棄等の事実はいずれも否認する。

第八、証拠関係(省略)

理由

第一、本件訴の適否

一、請求原因第一項に記載の事実(原、被告および訴外岩井町農業共済組合(以下単に訴外組合と略称する。)の関係)は、いずれも当事者間に争がない。

二、本件訴の内容 本訴請求は、これを大別すると、原告が訴外組合に代位して、被告に対し

(1)、農作物(水稲、陸稲、麦)共済の共済掛金、事務費ふ課金(以下単にふ課金と略称する。)および農業共済基金きよ出金(以下単にきよ出金と略称する。)

(2)、建物共済の共済掛金

とこれらに関する遅延損害金の各支払を求めるものであることは明らかである。

三、農業共済組合の性格、農作物共済掛金およびふ課金の性格

農業災害補償法(以下単に法と略省する。)は、農業者が不慮の事故により受けることのある損失を補てんして農業経営の安定をはかり、農業生産力の発展に資することを目的とし(法第一条)、その目的達成のため農業共済組合(以下単に組合と略称する。)および農業共済組合連合会(以下単に連合会と略称する。)について規定する。これによると、組合は、農作物共済、かいこ まゆ共済、家畜共済、任意共済などの事業を行う法人(法第三条、第八三条)であつて、設立には行政庁の認可を要し(法第二四条)、時には設立が都道府県知事から命令されることもあり(法第二九条)、組合が成立したときは、その組合員となる資格を有する者は当然組合員となり、組合成立後右の資格を取得した者もまた当然組合員となる、いわゆる強制加入方式をとつており(法第一五、第一六条)、農作物共済およびかいこ まゆ共済については、組合と組合員との間には原則として当然に共済関係が成立し(法第一〇四条)、農作物共済もしくはかいこ まゆ共済の共済掛金、ふ課金またはきよ出金を滞納する者があるときは、組合は、市町村に対し地方税の滞納処分の例により徴収することを請求し、場合によつては、都道府県知事の認可を受けて地方税の滞納処分の例により、自らこれを処分することができ(法第八七条の二)(なお、法第八七条の二に関しては、昭和三二年法律第一一九号による改正前においては、ふ課金についてこの強制徴収権は認められていなかつた(旧法第一〇八条参照)。)、解散には行政庁の認可を必要とし(法第四六条)、行政庁の積極的な監督のもとにおかれている(法第一四二条の二ないし七)

などの特徴を持ち、農業共済組合は、いわゆる公共組合として、公法人としての性格を有するものというべきである。

そして組合が、法および定款によつて組合員に課する共済掛金、ふ課金債権(法第八六条、第八七条)は、前記のところから明らかなとおり、公法上の債権と解すべきである。

四、債権者代位権の行使が許されるか

(一)、農作物共済掛金、ふ課金について

(1)、およそ公法人の有する公法上の金銭債権であつて強制徴収の手段が確保されているものについては、その公法人に専属する権利と考えるべきであつて、単なる経済的価値としての移転性は予定されていないし、その譲渡差押も許されず、債権者に対する一般担保をなすものではないと解すべきであり、従つて、債権者による代位行使は許されないものと解するのが相当である。

本件における共済掛金、ふ課金債権は、前記のとおり、強制徴収の手段の確保されている公法上の金銭債権であるから、債権者による代立行使の目的となり得ないものというべきである。

(2)、なお、原告は、防災ふ課金については強制徴収権が認められていない旨主張するが、いわゆる防災ふ課金も事務費ふ課金の一種にすぎない(法第九五条、定款第二〇条参照)と解すべきであるから、他の一般ふ課金と扱いを異にする理由はない。

(3)、なお、ふ課金の強制徴収権は、昭和三二年法律第一一九号によりはじめて認められたものであるから、この改正法施行前に課せられたふ課金について考えてみる。

事務費ふ課金は共済事業の実施上必要な業務費の支払財源となるものであり、組合の業務遂行の財政的基礎をなすものであり、その徴収の有無如何が組合の存立および運営に重大な影響を及ぼすものであることは、法律改正(事務費ふ課金の目的なり性格なりに変化があつたものとは認められない。)の前後を通じて同じであるから、改正法の施行前に課せられたふ課金(昭和三〇年度ないし同三二年度分)について強制徴収が許されないとしても、このような目的を有する公法上の金銭債権については、前記共済掛金、ふ課金について述べたと同様の理由により、その代位行使は許されないものと解するのが相当である。

(二)、きよ出金について きよ出金は、終局的には、農作物共済、かいこ まゆ共済および家畜共済について、その保険金の支払に必要な資金の供給を円滑にするために設立された農業共済基金への出資にあてるため、組合が組合員に対し課するものであるが、これを徴収する権利については、農業共済基金法第四六条第三項において、法第八七条の二第一項から第六項までを準用し、強制徴収の方法を認めている。その目的、徴収方法などからみても、きよ出金債権は、農作物共済掛金、ふ課金債権の場合と同様の理由により、債権者代位権の行使は許されないものと解すべきである。

(三)、以上要するに、農作物(水稲、陸稲、麦)共済掛金、ふ課金およびきよ出金ならびにこれらに関する遅延損害金の各支払を求める訴については、いずれも債権者代位権の行使は許されないから、これらについては、その余の点について判断するまでもなく、不適法として却下すべきである。

(四)、建物共済掛金について

任意共済である建物共済の共済掛金については、前記のような公法的色彩は殆んど見当らない。公法人である農業共済組合が事業を行なうことから生ずる若干の特色(法第一二〇条の三により準用される法第一一一条の三など)のほかは、私法上の損害保険契約に基く保険料と同様に取り扱つて一向に差支えないというべきである。まして、原告と訴外組合との関係が前記のとおり密接な関係にある本件の場合においては、もちろん、原告は、債権者として建物共済掛金について代位行使をすることが許されるものと解するのが相当である。公法人である公共組合の権利であることは前記の場合と同じであるとしても、この結論に変りは生じ得ない。

第二、建物共済掛金請求について

一、成立に争のない甲第一号証、第二七号証(いずれも訴外組合の定款)の第六五条は、建物共済の申込をしようとする者は、一定の事項を記載した申込書を組合に提出し、かつ共済掛金の払込をしなければならない旨規定している。

しかしながら、右の規定は、組合が建物共済を引き受ける場合の典型的な手続を規定したものにすぎず、これによらない申込をすべて無効であるとすることはできない。建物共済の引受契約は無要式の諾成契約と解すべきである。換言すれば、定款の右規定は、共済加入の申込があつた場合に、係員による審査を容易にし共済事務を適正じん速に処理することを目的としたものに過ぎないと解すべきであるから、共済申込にあたり定款所定の共済申込書による申込がなされなかつたとしても、その一事をもつて、その申込を無効ということはできない。

二、本件で問題となつている昭和三〇年ないし昭和三四年度の建物共済については、原告は、連絡員市川正雄を通じて被告の申込を受け、訴外組合がこれを承諾した旨主張する。

なるほど証人堀井星弐の証言により真正に成立したものと認められる甲第一六号証(組合員台帳)、証人風見四郎の証言(第二、三回)により真正に成立したものと認められる甲第二二号証の一ないし五(家屋共済引受通知書内訳)、証人市川正雄の証言により真正に成立したものと認められる甲第二六号証(証査表)および証人市川正雄、同風見四郎(第二、三回)の各証言によると、訴外組合においては、昭和三〇年ないし昭和三四年度において、被告が建物共済に加入しているものとして事務を処理していたことが認められる。しかし被告の方からその申込をしたことについては、書類上直接の証拠は皆無であり、証人市川正雄、同風見四郎の各証言中右の点に関する部分はそのまま採用することはできない。かえつて、一つには、証人風見四郎の証言(第二回)や弁論の全趣旨によると、訴外組合においては、建物共済について毎年契約更新時期(期間が一ケ年であるため、毎年一一月一日)には、各地区の連絡員が組合員の口頭の申込を受け付け、その申込を受けた連絡員が調査表(甲第二六号証の書式)を作成して訴外組合に報告する建前になつていたところ、右口頭の申込に当つて、各組合員の判をとるとかの手続もとらず組合員から反対の意思の表明がない場合には前年度と同様申込があつたものとする取扱がなされていたという事実がうかがわれ、結局被告がほんとうに建物共済の申込をしたかどうかが記録上はつきりしておらないのであり、二つには、書類上、被告の建物共済申込金額は、昭和三〇年度(昭和三〇年一一月から一年間、以下同じ。)ないし同三二年度について金六万円、同三三年度について金八万円、同三四年度について金一〇万円と登載されているものの、これらの金額は近隣一般と同じ画一金額であることが明らかであるとともに、被告本人尋問の結果により認められる、被告所有家屋の広さ(母家屋約六〇坪、倉庫納屋を含めると合計約一〇〇坪)と比べて、保険の実質的意義をなさない金額でもあり、三つには、訴外組合が被告に対して発行送付したと思われる建物共済掛金納入告知書に対して、被告が、後日反対の意思を表明した事実はあつても、積極的にこれを認容する態度を示した事実が全く認められないこと等を総合すると、昭和三〇年度から昭和三四年度までの建物共済につき被告が有効な申込をしたことについては証明がないといわざるを得ない。従つて、訴外組合と被告との間に建物共済関係が成立していたということはできない。右各年度の建物共済掛金の支払を訴外組合に代位して請求する本訴請求はいずれも理由がない。

弁論の全趣旨により成立を認めうる甲第二〇号証によると、訴外組合においては、昭和三五年六月二五日被告に対して各種共済掛金、ふ課金を一括して納付するよう催告しており、その中の一項目として本件建物共済掛金の分も含まれていることが認められるが、これは、本訴提起の準備行為であると考えられ、未だ右認定を覆すには足りないものというべきである。

三、なお、証人堀井星弐の証言(第一、二回)および甲第一一号証、第一七号証によるときは、昭和二七年度ないし二九年度建物共済に関して、被告が、昭和三五年三月二一日頃になつて建物無事戻金として金三五円を受け取つているかのようにうかがわれ、従つて、右三年間については、被告が建物共済に加入したことを追認していたと一見推論できそうにも思われる。しかし、右証言によつても明らかなように、金額の記載も、被告の名前の記載も同証人が記入していたものであり、被告の判も同証人が代つて押していることが認められ、被告がどの程度までこの書類(甲第一七号証)を認識していたかは必ずしも明らかとはいえないし、かつ、建物無事戻金が三年間被害がなかつた場合の返戻金である(証人風見四郎の第三回証言)としても、前記年度分の建物無事戻金が昭和三五年三月に至つて処理されているという時間的間隔その他とも考え合わせると、被告が昭和二七年度ないし同二九年度の建物共済に加入していたことを追認したものとは必ずしも認め得ないものというべきである。

第三、結論

原告の農作物共済掛金、事務費ふ課金(防災ふ課金を含む。)および農業共済基金きよ出金並びにこれらに対する損害金の支払を求める各訴は、いずれも不適法であるから却下し、その余の本訴請求はいずれも理由がないから棄却し、訴訟費用について民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 横地正義 古沢博 吉本俊雄)

(別紙原告債権目録および被告債務内訳表省略)

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